日本のケベック研究
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47 飯笹佐代子(東北文化学園大学) インタビュー(日本語):http://youtu.be/2mvB3EZte70 丹羽 卓(金城学院大学) インタビュー(日本語):http://youtu.be/bhFM0tBGcsQ 対談要旨 丹羽:まず、インターカルチュラリズム(間文化主義)というケベック型の社会統合政策について、最近では「ケベック価値憲章」をめぐって大きな騒ぎが起こりました。そこでケベックでもインターカルチュラリズムに向って一枚岩ではなく、それを主導してきた知識人層と、それを理解するが必ずしも気持ちがついていっていない一般の人たちとの差が見えた気がしますし、またその差を政治家がうまく利用したのではないかと思います。 飯笹:私はその価値憲章が提案された2013年9月にたまたまモントリオールに滞在していて騒ぎの雰囲気を肌で感じることができましたが、フランス型の共和主義に引かれている一部の知識人たちや、多様な文化を受け入れることに躊躇している人たちが支持し、そしてそれを選挙対策に利用したい政治家たちがいて、背景には様々な理想や思惑が働いているといった印象を受けました。 丹羽:そのような生々しさが興味深いところで、できあがったインターカルチュラリズムを見せてもらうよりも、それが実社会で実現していくなかで混乱もあることが見られた点ではとても興味深い現象だったと思います。 飯笹:日本では「マルチカルチュラリズム」が理念型として紹介されてきた傾向があり、そのリアルな現実とのギャップはそれほどクローズアップされてこなかったと思います。その点で、ケベックの事例は今どのように試行錯誤しているのかというプロセスが直接見えます。もしケベックと日本に共通性があるとすれば、それは数的にも非常に強いマジョリティが自分たちの強い文化的アイデンティティにこだわっている社会といえるので、ケベックの事例は日本にとって多くの示唆に富むのではないかと考えます。 丹羽:確かにそのような共通点があると思いますが、他方ケベックではあくまで多様性が良いことだということは少なくとも頭の中では皆が合意しているのに対して、日本では多様な社会を目指すのかどうかさえあやふやで、どちらに行くかはっきりしない。したがって、日本はケベックをモデルにして考える以前に、理念型ではなくケベックの今の姿を現実に見て、多様性を統合することに困難があったとしてもそれを乗り越えようとしている姿にまず学ぶところがあるのではないでしょうか。 飯笹:まったく賛同いたします。 ---------------------------------------------------------------------------------

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